2006年08月17日

なにができるか。

 寝たきりになりつつあるわんこがいる。
 既に17歳。ご高齢のミックスわんこさん。
 
 体格が小さくはない。こういう子が寝たきりになった状態でうっかりしてると、すぐ褥瘡(床ずれ)ができる。体重はどんどん減っていく。寝たまま排尿することもあるから、被毛は汚れ、皮膚がただれてくる。
 
 それが、このわんこさんは、とてもとても管理がいいのだ。
 
 毛は常にふわふわ。体重は、立って歩いていたころに比べたら格段に落ちてはいるものの、そこからは一定をキープ。排尿に備えてのおむつは、市販のペット用おむつでは勝手が悪いとのことで、おかーさんが、わんこさんの体格と用途にあわせて、改良に改良を重ねていた。
 
 そのおかーさんが、胃にポリープができたから、切除のために入院するとおっしゃったのが、6月の下旬頃だったろうか。
 
 ご主人が退職して、わんこさんのお世話を一緒にしてくれるようになっているものの、何しろ「私がいつもやっていて、主人は慣れてないから不安」だと、ご自身が入院される前は来るたびおっしゃっていた。何かあったら何でも対応しますから安心してくださいねー。と、そのたび答えていたのだけれども。
 
 2週間と聞いた入院の予定が、まだ延びている。
 たまにいらっしゃるご主人には聞けず、わんこさんの具合ばかり聞いていた。

 
 数日前から、昼夜を問わない夜鳴きがはじまったとのことで、ご主人が疲れ切って、わんこさんを連れてこられた。わんこさんは年の割に認知症はそれほどでもない(というか、白くなった目でも、こちらを確認しようとするのだから、それほどぼんやりしているわけではない)けれど、何を要求して鳴いているのか判らない。
 
 わんことふたりきり。
 老犬は夜中も朝方も鳴き続ける。何を要求しているか判らないおとーさんは、何をしてあげられるわけでもなく、寝るにも寝られず。
 途方に暮れる。
 眠れないのは、非常に強いストレスになる。
 
 おかーさんが入院している間も、わんこさんはきれいに保たれ、しっかり介護してもらっているようで、体重も全然落ちてない。
 これだけの看護をひとりでするのが、どれだけ大変なことか。
 
 すぐにわんこさんをお預かりする用意をした。
 
 わんこさんをお預かりするとき、おとーさんが静かに、おかーさんが週末に一時帰宅できそうだから、そのときには元気な状態のわんこと一目会わせたい、と、おっしゃった。
 
 おかーさん、よほど悪いのか。
 入院前から、とてもとてもわんこさんのことを心配していた。きっと今も、病床でわんこさんのことを気にしているんだろう。

 わんこさんは、もともとおうちのひとにも自由に触らせないような性格だった。
 年をとって自由が利かなくなったから、思う存分さわれるようになったんですよー と、嬉しそうに言ってたおかーさん。
 おむつの改良に、どんな工夫があるか、ものすごく熱く語ってくれたおかーさん。
 
 元気なわんこさんに会って、改めて治療に専念してほしい。
 
 おとーさんは、おかーさんの心配をして、病院に通って看護して。おうちでは、わんこのお世話や介護をして、自分の面倒も見て。会社勤めのころにはあまり思いもしなかった類いの「たいへん」のさなかにいるのだと思う。
 体の自由の利かないわんこさんとふたりきりで暮らすストレスを軽減してあげたい。介護がストレスにならないように、少しでも楽にお世話が出来るように考えたい。
 
 
 どれだけの手助けが出来るだろう。
 いまそのことを考えている。
 
 あとは祈るばかり。

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2006年06月07日

ぼやき など。(小動物臨床での歯科

 ところでワタクシ、自分の職場での歯科処置は、ほぼ99%くらいの割合で担当するわけです(残りは休んじゃったとか、院長の犬とか親戚の犬とか)。あぁでも、歯科専門ではありません。一般診療が主なオシゴトです。職場もふつーのちっちゃい動物病院だから、年間にやる歯科処置の数も、100に届くか届かないかくらい。あぁでも、麻酔をかけての手術や処置は、基本的には一日1件しか取ってないことを考えると少なくはないのか。

 で、主にわんこの歯石歯周病関連の話。

  トリミングとかで、ついでに歯の表面の歯石を落としてもらってるから、表面もきれいで大丈夫ってー話も聞くけど、犬の歯科で本当に厄介なのは、歯周ポケットとそこに溜まる歯石。そして歯肉や歯槽骨の退縮。これは麻酔をかけないとチェックも難しい。さらに、犬猫はひとよりもエナメル質が薄いとのことで、きちんとした処置でないと、歯石と一緒にエナメル質を剥がすこともあるらしい。

 そんなこんなで、麻酔下での歯科処置をお勧めするわけですょ。

 ところでうちの職場では、数年前から超音波スケーラー単体ではなくて、動物病院での歯医者さんが使うような機械を使うようになった(導入している動物病院はまだまだ少ないと思われる)。これに、けっこう高圧で、エアと水を同時にも別々にも噴出できるヘッドがあって、歯周ポケットの汚れを発見するのにも非常に役に立つ。普通の状態では見えないとこもぴかぴかにできるようになった。

 歯周ポケットの掃除がきれいにできるようになって、何が変わったかというと、処置にかかる時間。特に歯周病がひどくて、ポケットが深くなっている子に関しては、歯の表面だけをきれいにしてときよりも確実に時間がかかる。

 歯石や歯周病がひどくなってる子たちは、シニアさんが多いから、事前検査や当日検査をする。検査結果や持病によっては、導入に使う麻酔薬も、一般の麻酔よりも作用時間が短い(多少高価なもの)を使用する(その後ガス麻酔に移行する)。抜歯をする場合には鎮痛剤も使う。作業中は付近にいろいろが飛び散るから、普通の手術よりも後片づけがたいへんなことになる。歯科用の機械そのものが、エコーやレントゲン機械並の値段がする(いやどれも販売価格には幅がかなりあるとは思うけれど)。

 それでも、処置にかかる費用が高いと思うひともいるらしく。
 初期投資はえらいことになってるんだけどなぁ。。
 超音波スケーラーにマイクロエンジンだけとは、仕上がりが違う(初期投資もかな〜り違う)ってこと、どうやって患者さんにお伝えしていけばいいんだろうなぁ。
 ちっちゃい手術の方が、よっぽど実入りがいいし、らくちんです。えぇ。避妊/去勢の方がよっぽど楽。だいたい若くて元気な子だし。(……そういう理由で、歯科処置をやってない動物病院があるのかなぁと今思い至ってみた)

 そういえば、先月転院してきた高齢ねこさん。主訴は「口が痛くて食べられない」。調べてみたら問題は歯周病(口内炎ではない)。しばらく抗生剤を投与して、落ち着いてきたところで歯科処置をしたので、おそらくもう問題はないと思われる。転院してくる前、もともとかかっていた病院では、口が痛いことについては「もう手遅れ」と言われて、何年も鎮痛/消炎目的で長期ステロイド投与されてただけだったとか。これは痛みだけをコントロールしているだけで、根本的な治療ではない。根本的治療が可能な病気に対して、うわべだけ繕ってる状態にしか見えないわけで(これについては怒り心頭気味なので、クールダウンしたらそのうち書こうと思っている)。

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2006年04月04日

爪とぎと。その他と。

 うみさんは、私が帰宅すると、おでむかえに出てきたあと、お気に入りの爪とぎまで急いで行って、爪をとぐ。これを、「歓迎の爪とぎ」と名付けている。
 
 遊んでいるうちに、ヒートアップしすぎて爪とぎしてしまうのは、「コーフンの爪とぎ」
 遊んでほしいけどどうかなぁっておとなしく待ってるときに、さぁ遊ぶよ! と声をかけるとするのは、「ヨロコビの爪とぎ」
 ベランダで見張りをしているときに、近くの道路を大型車が通って、音にびっくりして部屋に駆け込んでするのが、「動揺の爪とぎ」
 
 まだまだ、いろんなときに爪とぎをする。
 落ち着いているときに、すっくり立ち上がって爪とぎのところまで行って、がーりがーりはじめることもある(うみさんは爪とぎを3つ持っていて、その他で爪とぎをすることはほとんどない)。
 
 ねこの「爪とぎ」ひとつでも、いろいろあって面白い。
 …まぁ、突き詰めれば、マーキングという意味合いも大きいのではあるだろうけれど。

 ねこの「にゃぁ」にもいろいろある。こっちはもっともっとバリエーションがあるし、意味が多い。
 わんこの「わん」も同じこと(わん以外に聞こえる声の方が多いと思う)。
 そして、双方とも、たぶん普通のひとが思っているよりボディランゲージは多い。特に、犬は群生動物だから、コミュニケーションのためのボディランゲージは、一般的にねこよりも多い。
 
 犬は犬独特の意味のあるボディランゲージを飼い主に見せているのに、飼い主にはひと風に解釈(誤解)されて怒られてしまうわんこもたくさんいるんじゃないかなぁって思う。
 
 何気ない行動や動き、音に、人間とは全く違う意味があったり、人間には意味のない動きに見えるところに意味があったりする。
 そういうことを知ること、観察することは、いきものを好きで、共に暮らすひとにとっては、非常に興味深いのではないかと思う。

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2006年03月28日

お引っ越し直前

 引っ越すのは私ではなくー。
 先日取り上げた、もーすぐヨーロッパ方面へお引っ越しのわんこ。
 こないだ、もうしばらくは会えないなぁと思いながら見送ったのだが、今日またやってきた。今度はお腹を壊したとのこと。
 
 もんのすごく遠方へのお引っ越し準備で、おうちのひと(特におかーさん)はてんやわんやだと思う。環境の変化に弱いしばっちのわんこが、異変を感じてストレス性疾患になってしまうのも無理はないと思う。診察しても特に異常がないので、様子見なのであるが。
 
 シニアわんこなもんで、心配ではある。他に大きな病気が隠れてないといいなぁ。元気で帰って来いよー。
 
 それにしても、てんやわんやのなか、わんこの健康をきっちり気づかって病院に連れてくるおかーさんは、ホントに偉いと思うのだった。
 

 実はこのわんこ、若いころには行動に問題が多い子で、おかーさんが物干しに庭に出たところを襲って噛みついたりした子だったのだ。その後いろいろ行動療法を考えたりするなかで、去勢手術をしたら、さっくり扱いのほんとに楽な子になった。ときどきお預かりもしたのだが、この子だったらお利口さんだから、いつでもどこでも大丈夫。ってくらい。正直言ってしばっちでこういう子は珍しい。(柴は「作られた」目的からして、扱いが難しいと、最近の獣医の行動学では言われている。←ものすごく端折った説明)
 
 その子も今は11歳。無事に帰ってきたら14歳。
 同じ年でニューヨークに渡り、14歳で元気に帰ってきたしばっちもいた。
 ぜひぜひ同じ記録を打ち立ててほしいところ。
 
 ご家族に先駆けて、わんこは成田へ発つのだそうだ。
 元気に新しい土地に馴染みますように。元気に日本に帰ってきますように。
 
 たっしゃでなーっ。
(とこちらは思っていたのだけど、わんこは元気に病院を走り去っていったw)

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2006年02月15日

おとしよりでもスケーリング

 最近スケーリングを依頼されることが多い。歯石を取って、歯と歯茎の間の汚れも取って、必要であれば歯肉炎処置や抜歯もする。

 今日はもともと、18歳のねこさんのスケーリングの予定が入っていた。口臭がとてつもなくひどいので、ぜひともやってくれと頼まれて、麻酔のリスクなどを一通りお話ししたら。予定の数日前になって、やっぱりお年だし、心配になって……。ということでキャンセルになった。

 そのキャンセルが入った当日。見ていたかのように、できれば14日にスケーリングをお願いしたいんですーと電話があった。そんなこんなで、17歳のわんこのスケーリングの予定がいれかわりで入ったのだった。

 このわんこも腎不全があったりで、なかなかリスキーではあったのだけれども、口の中のニオいも歯石も歯肉炎も、さすが17年溜め込んだ。ってだけあってエラいことになっていて。歯が完全に隠れるくらいの歯石。画像をお見せしたいくらいの口の中(歯根が1〜1.5cmくらいあると仮定して、本来だと全部が歯槽骨にハマって歯を支えているのだけれど、歯肉炎で歯肉も歯槽骨も退縮して、何本かは、ほんの2mmくらいが歯槽骨に固定されている状態。ぐらぐらのぷらぷらでようやくくっついていた。 写真はあるのでそのうちアップするかな…)。

 結局、超特急での口の中の掃除と、歯石で支えられていたようなぐらぐらの歯が7本もあって、これを抜歯。
 わんこ本人は、麻酔から醒めたら、点滴をしていられないくらい元気いっぱいに騒ぎ回る。予想外なほど。ごはんもぺろりと平らげて、元気に帰っていった。よかたよかた。
 …それにしても17歳。このおトシで、痴呆もなく、元気に歩いて帰れるしばわんこは珍しい。
 口もさっぱりとキレイになったことだし、まだまだ元気でいて欲しいところ。

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2006年02月10日

おもいでの写真。

リリー.jpg

 事情により、おうちに帰ることができなかったわんこ。
 寝たきりになる前の写真を、スタッフが持っていた。
 2月1日、長い闘病生活から開放された。
 享年不明。 

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2005年11月10日

おとしよりわんこ。

 事情により飼い主が世話できなくなり、代理のひとがみていたお年寄りわんこ。胸にあった腫瘤から膿が出たとのことで来院した。
 
 ほんとによれよれしている、小柄なおとしより柴っち。
 もうこれが、もんのすごい乳腺腫瘍で。
 わんこにゃんこの胸には、だいたい5対の乳頭があり、その左右それぞれを縦につなぐように乳腺がある。
 この左側。真ん中にできている、直径約10cmくらいの腫瘍。これだけでもびっくりなのに、そのてっぺんに大穴が空いている。また、その腫瘤から脇(腋窩)に向かって大小さまざまな腫瘍がぼこぼこと連なって、脇の下にまた深くて大きなかたまりがある。
 右側は、大きな腫瘤はないものの、皮膚に2cmくらいの穴が空いている。そこを覗いて卒倒しそうに。なんとこの時期に、はえのこどもさんがいっぱい詰まっていましたよ。もぅ泣けそう。
 
 むしを取り除き、消毒をして、抗生剤やらと一緒に痛み止めの処置も。

 一方で、この乳腺腫瘍。自壊(組織が壊死して割れている)して排膿してる。こういうのは、組織が死んでいて起こるから、傷の手当てをしても治らない。腫瘍の切除が治療の第一選択となる。
 とはいえ。このおトシ。今までの管理も決していいとは言えない。全身状態をチェックする必要もあるし、腫瘍の進行の度合いを考えると、既に肺転移を起こしている可能性もある。腫瘍を切除しても、完全切除は難しいと思われる(悪性の疑いが強いのと、長らく放置されたために、周囲に癌細胞が浸潤していると考えられるってーことです)。
 手術となると、費用もかなりかかる。飼い主さんは、おそらく支払い能力が無い。
 
 むぅ。
 いんちょは、安楽死も含めて話をしなくちゃいけないかなぁ。なんて呟いていたわけです。
 痛くても怒ったりしない、とてもとてもいい子だとわかってきてるから、それはわしらスタッフとしてもひじょーにつらい。
 
 てなことで、代理の方と延々相談。その代理のひとというのが付き合いの深い患者さんで信頼できるひとだったのが何よりの救い。
 
 で。
 手術をすることになりました。支払いはもぅ、あれもこれも削ったりして、後回しでもいいよ状態なんだと思われる。
 完治はしないかもしれない。今のとこ肺転移らしいのはみられないけど、今後の再発や転移の可能性は高い。でも少なくとも、しばらくの間は、今よりずっと楽に暮らせるだろうと。
 
 あぁほんとによかったね。
 
 体力も低下しているので、大急ぎの手術。根治が目的ではなく、今のつらさを取り去るのが目的。でももちろん、点滴をいれて、お年寄り用の麻酔(注射薬)を使って導入。ガス麻酔に移行して、モニタリングもいつも通り。
 
 で、実際はじめてみてまたびっくり。予想はしていたものの、腹膜にも浸潤しているし、腋窩リンパまわりもものすごいことに。腋の下もかなり切らねばならず、神経も全部の温存は不可能。
 
 …この子、歩けるようになるんだろか…
 手術が無事終わる目処が立ち、いんちょがものすごい勢いで縫合している間(ほんとに早いよぅ)、ふと不安になる。 

 手術を終えたら、麻酔からあっさり醒めてくれた。ぉぉ。
 2時間後くらいには、ご飯もぺろんと平らげた。ぉぉぉ。
 
 これはすごいですよ。
 
 しかも翌日の朝、多少フラフラしていたけれど、それでも自分の足で歩いて少しだけお散歩できた。夕方にはもう、足取りはしっかりしてきて、かえって元からだと思われる後ろ足の方がよろよろしちゃってるくらいで。
 ご飯はあっという間に食べ切ってしまう。そのまた翌日には、「ケージから出して!」と要求するようになってきた。
 
 効果の高い鎮痛剤も使っているとは言え、腋の下から下腹に至るようなでっかい傷ですよ。もう、すごいですよこれは。手術した甲斐があったし、わんこも頑張った甲斐があった。
 
 最初にいんちょが安楽死かなと言った時点で、もんのすごくブルーになっちゃったりしていたんだけど、この子の回復とともに自分も元気になってきた。
 
 関係ないけど、今まで10年間、お預かりのときは一切食べない・排泄も3日は我慢するというチワワがまたお泊まりに来ていて、今回初めてご飯を食べてくれた というのもまた嬉しい話題。(その子がご飯を食べるところを、スタッフみんなして、初めてみたわけですよ…)
 
 こゆことがあると一気に元気になる。お気楽なワタクシ…

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2005年05月24日

肥大性骨症

 肺に腫瘍ができたわんこが、肥大性骨症というのになることがある(厳密に言えば、肺の腫瘍でなくても出ることはある)。難しくないコトバでいえば、四本足の手首足首を中心としたあたりが、骨ごと腫れてくる感じ。これは、根本的な治療は、原因となる腫瘍の切除になる。
 
 1年ほど前、転院してきたお年寄りわんこがこの病気にかかっていた。その時点で既に、犬種の平均寿命をやや越えかけているくらいのお年。飼い主さんは手術を希望しなかった。抗炎症薬を内服投与で見ていくことになった。肺の腫瘍は切除しない限り治らない。それだけは了承してもらって。 

 1年近く頑張れるとは予想していなかった。腫れた足は、来院時に見られた骨膜反応がかなり引いた時期もあった。つい最近まで、1時間近くお散歩に出ているということだった。
 
 その子が、ご飯を食べなくなったと来院したのが先週半ば。病院ではご飯を食べたので、そのままお返しした。
 日曜には呼吸が悪いと来院していた。そして今日、苦しそうだという電話があった。夜に何度か苦しそうな声で鳴いたあと、血便が出るようになり、もう立てない。呼吸は荒く、意識は朦朧としている。あまりにつらそうだからと、おうちの方は涙ながらに安楽死を選択した。

 安楽死は、麻酔の注射薬を使う。
 静脈に薬を入れはじめると、まず眠った状態になる。そのまま薬を入れていく。
 つらそうな呼吸が、緩徐になり、やがて止まる。
 
 
 この子は本当に頑張った。肺の腫瘍は、それ自体では症状が出にくい(症状が出るころには末期になっている)こともあるだろうが、12〜14歳で亡くなる子が多いこの犬種で、腫瘍を抱えながらもうすぐ16歳になろうとしていた。腫瘍があると確実に判明してから1年あまり、この子なりに元気に過ごしてきた。
 日曜に、院長が「撮らせてもらった」と言った胸部のレントゲンでは。腫瘍はもうかなり心臓や気管をを圧迫するほどになっていた。影響が全身に及んで、それでもぎりぎりまで、精いっぱい頑張っていたんだと思う。
 
 
 症例として、肥大性骨症が抗炎症薬で1年近い間コントロールできたということで、記憶に残るだろう。
 でも、この子自身のことも、きっとずっと忘れない。お散歩が大好きで、おとなしくてとてもいい子だった。

 この子の名前のタイトルを付けるわけにはいかないので、この先ずっとこの子を連想すると思われる症候群の名前にした。

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2005年03月16日

わんこにゃんこにぅす

 PEPPY CATS(2005年春夏号)が出ています。ついでに、PEPPYももちろん出ています。
 クリニッククラブの春夏号も送られてきました。
 みなさん煩悩しましょうw
 
 ところで、クリニッククラブのカタログに、迷子札の紹介があったのだけれど、この中の「ペットスコープ」というのが、マイクロフィルムを内蔵して、29項目の情報を記載するという優れ物。写真を発見。
 今年あたり関東にも大きな震災があるという噂もあるし、うみさんの障害をひとことで説明して首輪につけておくなんてことは不可能なので、こういうものが大活躍かも…
 
 とも思う一方。
 これがどういうIDなのか、人間が気づいてくれないことにはどうにもならないなぁとも思う。役に立つかな。迷いどころ。

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2005年03月05日

終わりよければ…(ボタン電池)

 いんちょと奥さんは休暇中。雪が積もって午前中はひまひま。やれやれ。なんて思っていたら。

 ボタン電池飲んじゃったんですー! という電話。

 うわぁ。電池ですか。一瞬気が遠くなる。これは飲んじゃうととんでもなく危険なシロモノで、触れた粘膜が腐食する。要するに、食道でひっかかれば食道に穴があく。ということで。他の異物と違って、催吐剤を使って吐かせるのは禁忌。じゃぁどうすればいいんだよってことは、どの文献にも書いてない(笑)。自分自身は経験がない。
 困ったーと思いながらも、すぐ来てくださいー てことで。

 この間に、いんちょと付き合いのある近隣の先生に相談しようとしたら、こーいうときに限って外来がわーっとやってくるもんで。とほほ。(ここには内視鏡があるがウチにはない…)

 結論から言えば、レントゲンでは体の中に見つからなくて、「口の中にあった。口を閉じた次の瞬間にはなくなっていた。その後は吐いてない」という目撃証言(?)とは食い違うものの、おうちでもっかいよーく探してくださいとお帰ししたのだった。
 あとになって電話がかかってきて、ボタン電池が落ちていたとのことで。口の中に傷もなかったし、何がどうなったんだかよくわからないけれど、胸をなで下ろすってーのはこういうことですよ。わんこはきっとさんざん叱られちゃったんだろう。

 帰宅してからネットでボタン電池の誤嚥を調べてみると、やはり小児科では問題になることがあるようで。救急の先生のお話は非常に参考になった(小児科の先生同士でのスレッドのようなところに行き着いた)。先生方の意見や処置にはかなり食い違いがあって、正直なところ、とても驚いた。あぁでも、勉強になりましたわ。

 今回のことでよかったことと言えば、電池のんだわんこのおかーさんの実家のわんこが入院していて、ついでに面会していってもらえたことかも。お年寄りわんこなのだけど、久しぶりに会ったおねーさん(=電池わんこのおかーさん)にはしゃいで、彼女にしては軽やかな足取りになっていた。

 まぁ、終わり良ければすべて良しってところかしらー。

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2005年01月24日

あかるいにぅす。

 リンパ腫のわんこ。抗癌剤をはじめて一ヶ月あまり。
 副作用も出ずに、症状がなくなった。元気も出てきているし、体重も増えてきた。

 ここんとこ、おとしよりわんこが亡くなる話が相次いでいたので、嬉しい話だったのでした。

 完全寛解するといいなぁ。

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2004年12月27日

事故わんこ

 先週車にはねられて、骨盤が割れるわ尿道は一部損傷するわでたいへんになっていた小型犬。先週末にはご飯を食べるようになっていたので、週が明けた今日に骨盤整復手術。今朝はご飯をもらえないので、きぅきぅ鳴いていた。

 骨盤整復の手術は比較的順調に終了。
 それでもやっぱり痛いのには変わりない。麻酔がさめかけるころにはとてもつらそうな声を出していたし、そのあともずっととろりんとした目をしてぐったりしていた。おかーさんが会いに来ている間も、手に顔を乗せたまま、うとうと。

 明日にはもうちょっと元気になっているだろうか。

 お正月は。おうちで迎えられるといいねぇ。

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2004年12月22日

事故。わんこ。

 昨日、事故に遭ったというわんこが運び込まれてきた。交通事故の患者は最近めっきり少なくなった。ねこの室内飼いが増えたのが大きな要因だと思っている。
 てのはさておき。運び込まれてきた小型犬。家からぴょんと飛び出したところをはねられたらしい。外傷は少なかったけれど、調べてみたら骨盤のあちこちが折れている。もっと調べていくと、尿道が切れていることがわかった。

 これは。放っておくと、死んでしまいますですよ。

 診療が終わってから、開腹手術。骨が折れているのは死因にはならないので後回し。尿道を確保するためだけの手術になる。体調が悪いため、麻酔中にもどんどんと体温が下がる。うひぃ。他に問題はないか確認しながら、それでも大急ぎの手術。早く終わらせて麻酔から覚醒させないと、二度と目覚めないかもしれない。

 そんなこんなで昨晩の手術。麻酔から覚めてきたときの顔は、明日まで頑張れるのかなぁと不安になるような感じだったのだけど、今朝のわんこはくりっとした顔立ちでひとあんしん。尿道も問題ないらしく、腎機能も正常値。よしよし。
 これからは、点滴をしつつ全身状態が安定させることが先決。なるべく早く安定させて、今度は骨盤を整復させなければならない。割れた骨盤の断面が腹腔内に向いていて、尿道を傷つけていた。なるべく早く治したい。それでもやっぱり、全身状態が安定してないと、時間のかかる骨盤整復には踏み切れず……

 早く整復してあげたいんだけどなぁ。早くご飯を食べてくれるといいんだけど。。。

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2004年12月13日

とびこみスケーリング

 1週間ほど前から口が痛そうということで抗生物質を飲んでたプードル15歳。ご飯を食べられなくなってきたとのことで来院。口の中を覗いて見ると、たいへんたいへんな。しかも強烈な匂いも。たいへんたいへんな。
 なるべく早くに口の掃除をして、ぐらついてる歯があれば取らなくちゃ…という話に落ち着いたものの。スケジュールを見ると今週はどこにも押し込みようがないほどぎっちり。だったらいっそのこと今日やっちゃいましょう。ということで、既に手術がふたつあるけど突っ込んでみた。

 もともとの予定その1、ねこさんの避妊。その2,うさぎの臼歯の処置。は、削らなくちゃかしらと思っていたら、麻酔をかけてよくよく精査したら、もっとたいへんなことになっていることがわかってあたふた。

 そこに突っ込んだお年寄りプードルの歯科処置。お年寄りなのでなるべく麻酔の時間は短くしたい。したいのだが。この口。
 歯石だらけで強烈な匂いが出ているのは仕方ないことなのだけれども、歯石を取るだけで、歯根がどんどん露出する。歯肉だけでなく、歯槽骨までも後退している。歯石を取る前からもぐらんぐらんの歯がいくつか。歯石を取るとそれはもっと増える。結局右側にあった臼歯は全部抜歯。どの歯もとても痛かったに違いないと思う。触るだけで揺れる歯というのは、何かを食べて圧力がかかるときにはむちゃむちゃ痛いけれど、何もしてなくても、じっとしてるだけで痛くて痛くて…のはず。抜歯も痛みを伴う処置だと思うけれど、持続的に痛んでいる大元を取り除いたのだから、時間が経てば、きっとずっと楽になるはず。
 ほんとのところは、痛そうな歯を全部抜歯することはできなかったんだけど。(歯が下顎骨を支えている部分があった。こういう歯をむやみに抜くと、顎の骨がこっきりと折れてしまう)

 1時間半の作業は、細かい作業でもあり体力仕事でもあり、臭くて感染の危険が伴う汚いものでもあるけど、この子のこの先の生活が楽になれば…と思う。

 もうね、歯を抜いたときに、その穴から膿がにゅるっと出てきたときには。予想できてたことだけど、やっぱり「ぅわわわわーっ」って思うのです。

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2004年11月16日

むずかしい

 おとしよりわんこ。
 立てなくなって、痴呆も進んで、すっかり痩せて、体温も下がってきた。
 いつまで頑張れるかなぁ。って状態になってくると、介護しているおうちのひとに、何といったらよいやら。と思う。
 だれもほめてくれないし、頑張ったからって立てるようになるわけではない。どんなに尽くしても夜鳴きは終わらず、近所から苦情が来ることもある。
 そんな状態で、毎日毎日ずっと頑張っている。中には、介護を頑張りすぎて、おうちのひと自身が入院してしまったなんてこともある。

 自分から見える範囲でも、それはそれはたいへんなことだと思う。

 ……にんげんは。もっと大変なんだろうなぁ。
 
 まとまらずに、ぼんやりモニタを見ていたら、うみさんが乗っかってきて、キーボードもトラックパッドも何もかんも踏んでしまうし、丑三つ時を過ぎたしで、今日はこの辺で〜。

 あ、でも、ひとつだけ。
 相手が犬にしろ人間にしろ、介護というものをやったことがないひとが、実際に頑張っているひとに偉そうにとやかく言えるようなことは何もない。とは思う。
 特に犬の場合、外野の無責任な「(犬に対する)かわいそう」が、頑張っているおうちのひとをどれだけ傷つけているか。
 外野は何も頑張ってないからこそ無責任な意見が言えるのだ …なんてことは、わんこの介護だけが当てはまることではないのだろうけれど。。

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2004年11月04日

またゴールデンの腹腔内腫瘍

 ゴールデンレトリバーの腫瘍。やっぱり脾臓だった。直径10cmを越える。血管肉腫か何かなんだろう。病理検査に出して結果を待つ。
 無事切除できて。
 術後も予断を許さないのであるけれども。
 
 ど。
 麻酔から覚めたと思ったら無理やり起き上がろうとするし、ようやくケージに入れて、ちょっと目を離した隙に、点滴を留置針ごと取ってしまった。
 麻酔から覚めたばかりでエリザベスカラーをつけるのもかわいそうかしらと思ってた矢先に……
 
 そんなことするんだったら絶対元気にならないと許さないぞおまえーっ。むきーっ。
 
 大きな手術のあとで、こんなことをやらかす子は久しぶり。今後の治療がまともにできるといいなぁ。…てゆか、できないととてもとても困りますぅ。

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2004年10月05日

じゅげむーっ

 たまに書こうとすると、重過ぎて書けない。
 遅くなったけどメンテナンス終わりましたーとのメールが来た今日。ほんとになんと書けばいいやら。

 あー…。

 昨日。診察時間終了間際。
 一昨日から吐く。今日になってたくさん吐いてる。というダックスが来た。9歳。1歳のころに、プラムかなにかの種を飲み込んで、腸閉塞になって開腹手術をしたことがある。嘔吐の出方が異物誤飲の症状に似ていたので、またそうなのかなと思って、レントゲン。
 お腹に、腫瘤があった。直径6cmほど。彼の体からすると、かなり大きい。超音波検査と続けて、脾臓の疑いが強いけれど、嘔吐を考えると消化管にできている可能性もある。ということで、翌日、朝から時間のかかる検査をする予定だった。

 その「翌日」にあたる今日。
 診察時間がはじまる前に電話がかかってきた。昨晩から呼吸がおかしかったことと、倒れてそのまま呼吸が止まっているかもしれない。とのことで。
 連れてこられたときには、もう亡くなっていた。

 おうちのひとも納得いかないし、こちらも納得いかない。おうちのひとの希望で、剖検をすることになった。
 それが今日の朝いちばんの仕事。

 お腹にメスを入れると、血の海だった。
 腫瘤の正体は脾臓。大きくなった腫瘤が、ぱっくりと裂けていた。今まで、脾臓の腫瘤からの出血で手術、というのは何度も経験している。それでも、脾臓の正常のサイズに比べて、こんなに大きく腫れ上がり、その上でこんな裂け方をしているのは初めて見た。

 昨晩のうちに開腹していたらと考える。でも、確定診断がついてない段階で、しかも来院したその日に開腹手術に踏み切ることはほとんどない。わからないけど開腹するというのでは、おうちのひとも受け入れがたいだろうとも思う。
 もうひとつ。あの裂け方では、脾臓摘出の手術のさなかもかなりの出血がある。輸血が必要になるが、供血犬をおいてないので、血液を入手するのは困難だ。クロスマッチの必要性も考えると、すぐに手術をするわけにはいかない。

 仕方なかったのかなぁ。。
 もっと早くに見つけることができたら。としか考えようがない。かといって、出血がない限り、自覚症状はほとんどないように思うし。

 この子、自分が初めて腸閉塞を経験した子なんである。
 こんな亡くなり方をするなんて思ってなかったよー…

投稿者 chi : 21:55 | コメント (0) | トラックバック